事業者の突然の訪問や電話など特定商取引法で定められた取引形態の内6つの取引形態は、法定書面を受け取ってから8日以内(一部の取引は20日以内)であればクーリング・オフをする事ができます。不要な契約だけでなく、悪質業者と結んでしまった契約から消費者を守る事ができる強力な仕組みです。

しかし、「法定書面を受け取ってから8日以内」は、かなり短い期間です。気付いた時にはクーリング・オフの期間を過ぎていたという事は多くあります。

クーリング・オフ期間を過ぎていたら、諦めるしかないのでしょうか?悪質業者との契約も泣き寝入りするしかないでしょうか?

この記事ではクーリング・オフで対応できない時に頼る消費者契約法について解説していきます。

消費者契約法とは?

まず、消費者契約法を説明する前に、大まかな概要について解説します。

日本国では、当事者間で自由に契約を結ぶ事ができます。誰と誰が契約を結ぶか?どんな内容の契約を結ぶか?など、基本的には自由です(犯罪行為など公序良俗に反する内容を除く)。

しかし、全てを当事者間に委ねてしまうと、一方が不利益を被る場合があります。例えば医療や治療の契約。この契約を当事者間に委ねてしまうと、医者が治療行為を断る事ができるなど大変な事が起こります。
そして消費者が企業と結ぶ契約も同様です。消費者と事業者は、持っている情報の質・情報量・交渉力に格差があります。消費者と事業者が対等な立場になる事は難しく、消費者が不利益を被る事があります。その格差を解消するため、別の法律によって様々な取り決めがあり、その1つが消費者契約法です。

消費者契約法は、消費者が事業者とした契約を対象とした法律ですが、それ以外にも製造物責任法や金融商品販売法など、様々な取引形態等に合わせて法律があります。

不当な勧誘により締結した契約は取消しができる

例えば、訪問してきた事業者から

  • 大事な事について嘘を言われた
  • 大事な事を伏せられた

そういった事があって結んだ契約で消費者が不利益を被ったらどうでしょうか?消費者は「そんな話じゃなかった」と憤ると思います。
そのため、不当・悪質な行為によって結んだ契約は、後から取消しを行う事ができます

不当な勧誘とは?

  1. 不実告知
    • 「既にシロアリ被害がある」と嘘を言われた など
  2. 不利益事実の告知
    • 中古車の事故歴を伝えなかった など
  3. 断定的判断の提供
    • 「絶対に痩せる」と言われた
    • 「必ず値上がりする」と言われた など
  4. 過量契約
    • 普段出掛ける事が少ない高齢者に、何着もの着物の購入を勧誘し販売した など
      ※事業者が事情を知らない場合や、消費者が多くの量を望んでいる場合は契約取消しの対象外
  5. 不退去
    • 消費者が「帰って欲しい」と伝えたのに、事業者が居座った など
  6. 退去妨害
    • 消費者が「帰りたい」と伝えたのに、事業者が帰らせてくれなかった など
  7. 勧誘する事を告げずに、退去困難な場所へ同行しての勧誘
    • 人里離れた場所や、交通手段がない場所へ同行し、勧誘されて結んだ契約 など
      ※場合によっては、イベントセミナーやホームパーティへの誘い出し、勧誘する行為も該当
  8. 威迫する言動を交えて勧誘
    • 消費者が「親に相談をしたい」と伝えているのに、「成人だから自分で決めろ」と威迫して契約を迫る など
  9. 不安を煽る告知
    • 就職セミナー商法
    • 「症状が悪化する」など告げ消費者を不安にさせ契約を迫る など
  10. 好意感情の不当な利用
    • デート商法 など
  11. 霊感等による検知を用いた告知
    • 霊感商法 など
  12. 契約前なのに損失補償等を要求されて結んだ契約
    • 指輪の鑑定や買取見積もりの際に、事業者が宝石部分を取り外し・元に戻せない状態にした
    • 不動産投資の勧誘に合い、現場に同行したが「契約しないなら交通費を払え」と要求 など

契約の取消しには期間がある

契約の取消しには期限があります。

  • 契約の締結から5年以内
  • 契約者が追認できるようになってから1年以内
    「追認できるようになって」とは、「誤認に気付いた」や「勧誘による困惑を脱した」時

11の「霊感等による検知を用いた告知」は、

  • 契約の締結から5年以内→10年以内
  • 契約者が追認できるようになってから1年以内→3年以内

契約を取消すとどうなる?

契約を取消した場合、契約した当初に遡って無効になります。基本的には受け取った代金や商品等は返還する必要があります。(送料等は返還者が負担)

消費者の利益を不当に害する契約条項は無効

消費者と事業者が結んだ契約の内容が下記のような内容だったら、どうでしょうか?

  • 事業者に責任があるのに「損害賠償は負わない」と書いてある
  • 商品の欠陥があっても「返品・返金・交換は応じない」と書いてある
  • キャンセル料が物凄く高い

これでは消費者が正当な理由で契約の取消し等をしようとしても、消費者が不利益を被るだけとなってしまいます。
そのため、消費者の利益を不当に害する契約の条項は、その部分が無効となります。

消費者の利益を不当に害する契約条項とは?

  1. 債務不履行責任、不法行為責任、契約不適合責任の免責条項
    • 事業者に責任があっても損害賠償責任を一切負わないとする
    • 事業者の損害賠償額はいかなる場合も◯万円を限度とする
    • 引き渡した商品に欠陥があっても事業者は一切責任を負わないとする など
  2. 免責の範囲が不明瞭な条項
    • 当社は過失がある事を認めた場合にのみ損害賠償責任を負う など
  3. 消費者の解除権放棄条項
    • 契約後のキャンセル、返品、返金、交換には一切応じられません
    • 事業者が認めた場合のみ契約のキャンセルができます など
  4. 平均的な損害の額を超えるキャンセル料条項
    • 結婚式場の予約を1年以上前にキャンセルする場合は解約料として契約代金の90%とする
    • 家賃の支払いが遅延した時は年率30%の遅延損害金を支払う など
  5. 成年後見制度を利用すると契約を解除されてしまう条項
  6. 消費者の利益を一方的に害する条項
    • ある商品の購入時にサンプルで付いたはずの商品について、消費者からの申し出が無い場合は定期的な購入契約とみなされる など

契約条項の無効とは?

該当する部分のみが無効となり、民法などの他の法律の定めが適用されることになります。

例)車の売買契約のキャンセル料が平均的に10%なのに対して、契約上で30%と定められている場合

  • 10%を超えた部分が無効

法律はあるけど安心ではない

例えば「シロアリがいる」などの業者の嘘(不実告知)によって、シロアリ駆除や床下工事の契約をした場合、被害に気付いた後に消費者庁や相談センター、警察、弁護士等に相談する事はできます。しかし、領収書等の物証が残っているでしょうか?また仮に物証が残っていても業者は存続しているでしょうか?支払ってしまった代金の返還等は実はハードルが高いのが現状です。

法律はあるけど安心ではありません。一番は悪質業者と契約を結ばない(被害にあわない)事です。

おかしいと思ったら契約前に誰かに相談する事、そして普段から周りが異変に気付く事ができるよう見守り体制を整える事が大事だと考えております。

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