2026年12月25日に施行される『こども性暴力防止法』によって、日本版DBS制度が導入・運用される予定です。
日本版DBS制度を導入した施設・事業者の方々は、様々な事に取組む必要がありますが、今回はその中の『防止措置』や『防止措置に至るまでの判断』について重点を絞って解説していきます。
なお以前の記事で、制度の概要について解説しておりますので、まだそちらの記事を読まれていない方は、是非お読みいただければと思っております。
当ページの情報は執筆時点の情報です。また、こども家庭庁に掲載されている資料等は、随時変わる可能性がありますので、ご注意ください。
執筆日:
参考資料等
教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針|子ども家庭庁
(以降、当サイトでは『横断指針』と書きます)
こども性暴力防止法施行ガイドライン|こども家庭庁
(以降、当サイトでは『ガイドライン』と書きます)
事業者が持つべき意識
横断指針には下記のように記載があります。
児童に教育・保育等を提供する施設の設置者・事業の運営者は、従事者による児童への性暴力が、被害児童に生涯にわたって回復し難い心的外傷等を与え得る重大な人権問題であるとともに、適切に対応しないことが重大な経営リスクとなることも認識し、未然防止・早期発見、性暴力の疑い発生時の適切な事実の有無の調査、児童の保護及び被害児童への支援を行うことが重要である。
性暴力の未然防止も必要ですが、性暴力の疑いやおそれの発生時そして早期発見も含めた適切な対応も求められています。
事業者には、施設・事業所内で発生した事象による性暴力のおそれだけでなく、犯罪事実確認の結果も含めて、性暴力等が行われる「おそれがあると認められるとき」は、必要な措置を講じる義務があります。
※「おそれがあると認められるとき」と書いていますが、これはあくまでも条文に沿ったためこの表現を使用しております。
実際には「疑いがあるとき」にも調査・事実確認等の措置を講じる必要があります。
なお、当事務所の記事では、ガイドラインを参考に「疑い(がある)」と「おそれ(がある)」を下記のように書き分けます
疑い(がある)
児童や保護者等から報告・連絡・相談があり、調査・事実確認が未完了の場合
おそれ(がある)
調査・事実確認の結果を踏まえて合理的に性暴力等の行為が認められる場合、もしくは当該従業者が特定性犯罪事実該当者の場合
特定性犯罪事実該当者とは?
犯罪事実確認により過去に性犯罪歴がある事が分かった従業者だけでなく、いとま特例適用中の従業者も含まれます。
性暴力等が行われる「おそれがあると認めるとき」とは?
性暴力等が行われる「おそれがあると認めるとき」の解釈や、判断・対応の流れは、ガイドラインに記載があります。
おそれの内容及び考え方並びにおそれに応じた防止措置の内容
※ガイドライン図表64と図表66を合わせた物
| 「おそれ」の内容 | 考え方 | 防止措置の内容 |
|---|---|---|
| (ア)特定性犯罪事実該当者であった場合 | 事業者は、犯罪事実確認の結果その他の事情を踏まえて「おそれ」の有無を判断するところ、特定性犯罪の確認対象期間が、過去のエビデンスから性犯罪の再犯リスクが特定性犯罪の前科を有しない者と比べて高い期間として設定されているものであること等を踏まえると、 特定性犯罪事実該当者であるにもかかわらず「おそれがない」と判断し得るだけの「その他の事情」があることは想定しがたい。このため、通常、事業者は、特定性犯罪事実該当者であったことをもって「おそれ」があると認める。 | 原則、当該教員等を対象業務に従事させない。 例:新規採用の場合は内定取消し等、現職者の場合は対象業務以外への配置転換等 |
| (イ)在籍する児童等やその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申出があった場合 | 在籍する児童等本人又はその保護者から、特定の対象業務従事者による児童対象性暴力等の被害の申告があった場合には、性暴力の被害が引き続き発生している可能性があることから、「おそれ」があると認める(被害があったことを前提とするものではなく、必要な事実確認ができるまでの暫定的な対応)。 | 被害拡大防止のため、被害が疑われる児童等と加害が疑われる教員等の接触の回避を行う。 例:一時的に対象業務から外し、自宅待機や別業務に従事させるなど |
| (ウ)調査等の結果、児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合 | 児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合は、被害児童等への更なる性暴力等や、他の児童等への被害拡大が生じ得ることから、「おそれ」があると認める。 | 原則、当該教員等を対象業務に従事させない。 例:懲戒事由に該当する場合には、就業規則に沿った対応を行うとともに、防止措置として不十分である場合には、対象業務以外への配置転換等を講じるなど |
| (エ)調査等の結果、児童対象性暴力等には該当しないが不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合 | 不適切な行為は、当該行為そのものは性暴力等には該当しないが、継続・発展することにより性暴力等につながり得る行為であるため、不適切な行為が行われたと合理的に判断される場合は、「おそれ」があると認める。 | 重大な不適切な行為である場合には、(ウ)に準じた対応を行う。 初回かつ比較的軽微なものであるような場合は、まずは、当該行為を繰り返さないように指導や研修受講命令を行い、注意深くその後の経過観察を行うなど、段階的な対応を行うことも考えられるが、指導したにも関わらず、同様の行為を繰り返した場合には、(ウ)に準じてより厳格な対応を行うことが考えられる。 |
図表65 おそれの判断プロセス

性暴力等の疑いがある時に事業者に求められる事
上記のガイドラインの記載内容を踏まえて、流れや留意点を解説します。
事業者の判断等の流れ
- 相談、面接、内部通報等により、性暴力の疑いを把握
- 対象業務従事者が、特定性犯罪事実該当者である
※特定性犯罪事実該当者には、過去に性犯罪歴がある方だけでなく、いとま特例適用中の従業者も含む- 「おそれがあると認めるとき」に該当
※防止措置が必要
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
- 対象業務従事者が、特定性犯罪事実該当者ではない
- 性暴力被害を受けた児童本人やその保護者からの申出
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
※防止措置が必要
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
- 他の児童等からの相談・通報であれば、下記「2.事実の有無及び内容の調査」へ
- 性暴力被害を受けた児童本人やその保護者からの申出
- 対象業務従事者が、特定性犯罪事実該当者である
- 事実の有無及び内容の調査
- 必要な情報収集等が終わったら下記「3.事実の有無の評価」へ
- 事実の有無の評価(『性暴力』や『不適切な行為』に該当するか判断)
- 合理的に『性暴力』があると認められる
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
※防止措置が必要
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
- 合理的に『不適切な行為』があると認められ、重大な不適切な行為の場合
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
※防止措置が必要
- 「おそれがあると認めるとき」に該当
- 合理的に『不適切な行為』があると認められるが、初回かつ比較的軽微なもの
- 当該従業者への指導や研修受講命令
- 合理的に『性暴力』があると認められる
保護者への連絡・説明・確認・相談等は適宜必要に応じて行う必要があります。
注意
状況に応じて、行政官公庁署(警察やこども家庭庁など)へ報告・連絡・相談を行う必要があります。また、必要に応じて弁護士や医療機関等へ相談してください。
児童から聞取り等を行う際の留意点
「日本版DBS 導入に向けて事業者が取組む事は?-安全確保措置編-」の記事でも記載しておりますが、児童から聞取り等を行う際は、下記の点にご留意ください。
性暴力等の疑いが発覚した時の対応の重要ポイント
性暴力等の疑いが発覚するパターンとして、下記のパターンがあると思われます。
- 被害児童からの直接の訴え
- 被害児童以外からの情報提供
- 同僚の行動等を見聞きする
直接・周囲からの情報提供の場合は、まずは話してくれた相手へ「感謝の気持ち」を伝え、「話す事が悪くない事」を伝える事が大事です。
また、全てのパターンに該当しますが、被害児童を徹底して守り通すことを第一とし、加害行為を絶対に許さないという姿勢で挑むことが重要(被害児童ファースト)とされています。
↓「日本版DBS 導入に向けて事業者が取組む事は?-安全確保措置編-」の記事はこちらから
事業者に求められる防止措置
こども性暴力防止法
第6条 学校設置者等は、第4条の規定による犯罪事実確認に係る者について、その犯罪事実確認の結果、前条第1項の措置により把握した状況、同条第2項の児童等からの相談の内容その他の事情を踏まえ、その者による児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認めるときは、その者を教員等としてその本来の業務に従事させないことその他の児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じなければならない。
図表72 特定性犯罪事実該当者について防止措置を講じる場合の対応

性暴力等のおそれがあると認められる時、事業者は配置転換等何らかの措置を行う必要があります。そして、防止措置として雇用管理上の措置を講ずる場合には、労働契約法等の労働関係法令等を遵守した対応が求められます。
雇用管理上の措置と留意点
雇用管理上の措置(防止措置)として考えられるは、配置転換、内定取消し、懲戒処分、普通解雇等です。性暴力等のおそれがあると認められたとしても、それだけで防止措置を行うと、裁判によってその防止措置を無効と判断される場合もあります。
図表67 労働法制等を踏まえた留意点
| 雇用管理上の措置 | 留意点 |
|---|---|
| 配置転換 | 裁判例では、「就業規則に業務上の都合により労働者に転勤や配置転換を命ずることができる旨の定めがあり、勤務地や職種を限定する合意がない場合には、企業は労働者の同意なしに転勤や配置転換を命じることができる」とされている。 このため、雇用契約上、明示又は黙示に、勤務地限定合意や職種限定合意がある場合には、同意が必要となる(その場合、同意のない配置転換は雇用契約上の根拠を欠くものとして無効)とされている。 |
| 内定取消し | 判例では、内定取消しの有効性について、「採用内定通知書等に記載された採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としている。 内定取消事由として、「重要な経歴の詐称」を定めることは、一般的になされている。 |
| 懲戒処分 | 労働契約法第15条では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」とされている 判例上、懲戒処分は、懲戒種別と懲戒事由を就業規則に定め、その就業規則を周知している場合に行うことができる。懲戒事由として、「重要な経歴の詐称」や「刑罰法規に該当する場合・企業秩序を乱した場合」等を定めることは、一般的になされている。 一方、懲戒事由に該当する場合であっても、懲戒解雇の有効性が認められるかについては、最終的に司法において、個別の事案に応じて、社会通念上の相当性に照らして判断される。 |
| 普通解雇 | 労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされており、最終的に司法において判断される。 解雇事由としては、一般には、企業秩序違反や適格性の欠如等がある。 |
留意点を考えた上で、事業者が事前に対策する事
- 就業規則等を整備する(解約事由や懲戒事由に「重要な経歴の詐称等」などを記載する)
- 採用募集要項の採用条件を見直す(特定性犯罪歴が無いことを明示する)
- 誓約書により、従業者・採用予定者の特定性犯罪歴の有無を書面等で明示的に確認する(誓約書は事業者が保管)

就業規則等の変更例は、国(こども家庭庁)が示す対応例はありますが、各施設・事業者の実態に合わせて記載内容を考慮する必要があります。
実情を考えると、解雇という処分はなかなか行えるものではなく、解雇処分を行なったとしても裁判で無効と判断される事もあります。誓約書や就業規則などの入念な整備をするために、労働審判手続きに詳しい専門家(主に弁護士さん)へご相談される事をお勧めします。
まとめ
今回は、性暴力の疑いやおそれがある場合の対応や判断基準について解説しました。
性暴力のおそれがあると認めらる場合、対象従業者(職員)の配置転換等をする必要がありますが、その措置(防止措置)を講じるためには、就業規則の整備や、事前に従業者もしくは採用予定者から誓約書等で特定犯罪歴の有無を確認する必要があります。
まだ日本版DBS制度は始まる前ですが、この辺りの環境作りは前もって取組む事ができる分野だと思われます。
日本版DBS制度は難しい・複雑な事も多い仕組みですが、日本版DBS制度を通じて、子どもが安心して教育・保育等を受けられる環境づくりを目指していきましょう。
当事務所では、出来る限り最新の情報・資料を基に情報提供を行い、事業者さんが安心して新しい制度を運用できるようにサポートをしていきたいと考えております。
福岡県の日本版DBS制度に関するご相談や、申請・認定手続き、犯罪事実確認の申請・代行は、当事務所にご相談ください。
