2026年12月25日に施行される『こども性暴力防止法』によって、日本版DBS制度が導入・運用される予定です。
日本版DBS制度では、子どもに接する仕事に従事する人の性犯罪歴を確認する犯罪事実確認が義務付けられます。そしてその確認は、従業者が子どもに接する仕事に従事する前までに行う必要があります。しかし、ある特定の状況で、やむを得ず間に合わない場合に認められる例外的な措置として『いとま特例』というものがあります。今回はその『いとま特例』について、詳しく解説します。
なお以前の記事で、『犯罪事実確認』について詳細に解説しておりますので、まだそちらの記事を読まれていない方は、是非お読みいただければと思っております。
当ページの情報は執筆時点の情報です。また、こども家庭庁に掲載されている資料等は、随時変わる可能性がありますので、ご注意ください。
執筆日:
参考資料等
こども性暴力防止法について(概要)|こども家庭庁 ※2026年3月18日更新
こども性暴力防止法施行ガイドライン|こども家庭庁
(以降、当サイトでは『ガイドライン』と書きます)
いとま特例とは?
こども性暴力防止法
第4条 学校設置者等は、教員等としてその本来の業務に従事させようとする者について、当該業務を行わせるまでに、第33条第1項に規定する犯罪事実確認書による特定性犯罪事実該当者であるか否かの確認(以下「犯罪事実確認」という。)を行わなければならない。
第26条 認定事業者等は、認定等に係る教育保育等従事者としてその業務に従事させようとする者について、当該業務を行わせるまでに、犯罪事実確認を行わなければならない。
※ただし、現職者については一定の猶予期間があります
「犯罪事実確認は、当該業務を行わせるまでに、行わなければならない」とされています。
つまり、原則は子どもに接する仕事に従事する前までに従業者の犯罪事実確認を終わらせる必要がありますが、特定の『やむを得ない事情』がある場合はこの犯罪事実確認を終わらせるまでの期限を緩和させる例外的な措置があります。それが『いとま特例』です。
いとま特例は、新規採用や配置転換の際に適用される制度です。
なお、現職者は『いとま特例』ではなく、別途、一定期間の猶予があります。
- 法定事業者:子ども性暴力防止法施行から3年以内
- 認定事業者:認定から1年以内
いとま特例が認められる『やむを得ない事情』とは?
認められる『やむを得ない事情』は、法定事業者か認定事業者かによって変わります。
↓義務対象事業者・認定対象事業者や、法定事業者・認定事業者の違いは、下記の記事で詳しく解説しております。
法定事業者の場合
図表39 学校設置者等においていとま特例が適用される「やむを得ない事情」及び犯罪事実確認の期限
| 分類 | やむを得ない事情 | 期限 |
|---|---|---|
| 新規採用 | ① 学級数の変動等による急な増員や予見不可能な欠員等により、短期間に教員等を採用し、業務に従事させる必要がある場合 | 従事開始から3月以内 一定の要件に該当する場合は6月以内(※1) |
| ② ①以外の場合であって、学校設置者等の責めに帰すことのできない事情により、短期間に教員等を採用し、業務に従事させる必要がある場合 | ||
| 異動 | ③ 教育委員会及び国立大学法人間の人事交流その他の異なる事業者への異動に伴い、犯罪事実確認が必要となる場合であって、国等における予算編成上の制約等によって内示等の異動の決定(この表及び次の表において「内示」という。)が従事開始の直前となるとき | |
| ④ 教育委員会の事務局から学校への異動その他の同一事業者内で対象業務以外の業務から対象業務への異動に伴い、犯罪事実確認が必要な場合であって、国等における予算編成上の制約等によって内示が従事開始の直前となるとき | ||
| 事業者間契約 | ⑤ 労働者派遣契約や請負契約等に基づき教員等として従事させようとする場合であって、当該労働者派遣契約等の締結等が学校設置者等の責めに帰すことのできない事情により、当初の想定よりも遅れたとき | |
| 組織変更等 | ⑥ 現に行われている学校設置者等に係る事業について、新設合併(私立学校法、社会福祉法及び会社法に定めるものをいう。)、新設分割(会社法に定めるものをいう。)その他の事由により、新たに学校設置者等となる者が承継し、継続して当該事業を行うこととなる場合 | 従事開始から6月以内 (法定上限) |
| ⑦ 現に行われている学校設置者等に係る事業について、吸収合併(私立学校法、社会福祉法及び会社法に定めるものをいう。)、吸収分割(会社法に定めるものをいう。)及び事業譲渡その他の事由により、他の学校設置者等である者が承継し、継続して当該事業を行うこととなる場合であって、当該学校設置者等の責めに帰すことのできない事情により、短期間で教員等を業務に従事させる必要があるとき | ||
| ⑧ 学校設置者等に係る事業を、新たにこれらの施設の学校等又は児童福祉事業に係る学校設置者等となる行う場合であって、当該事業の許認可等が当初の想定より遅れるなどの学校設置者等の責めに帰すことのできない事情により、当該事業の許認可等から実際に当該事業の運営を開始するまでの期間が十分に確保できないとき | ||
| その他 | ⑨ 学校設置者等が、教員等の従事開始までに十分な余裕をもって犯罪事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、当該教員等の従事開始までに交付が受けられない場合 | |
| ⑩ ①から⑨までに掲げるもののほか、災害その他こども家庭庁長官が特に必要と認める場合 |
※1
①から⑤までに該当することによりいとま特例が適用されている職員又は従業者について、期限(従事開始から3月)までに十分な余裕をもって犯罪事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、当該期限までに当該交付が受けられない場合は、期限を「6月以内」とする。
※2
⑥の「その他の事由」には、吸収合併、吸収分割及び事業譲渡も含まれる。
認定事業者の場合
図表 40 認定事業者等においていとま特例が適用される「やむを得ない事情」及び犯罪事実確認の期限
| 分類 | やむを得ない事情 | 期限 |
|---|---|---|
| 新規採用 | ① 予見不可能な欠員等により、短期間に職員又は従業事者を採用し、業務に従事させる必要がある場合 | 従事開始から3月以内 一定の要件に該当する場合は6月以内(※1) |
| ② ①を除く、認定事業者等の責めに帰すことのできない事情により、短期間で従事者を採用し、業務に従事させる必要がある場合 | ||
| 異動 | ③ 異なる事業者との人事交流その他の事由による異動に伴い、犯罪事実確認が必要となる場合であって、認定事業者等の責めに帰すことのできない事情により、内示が従事開始の直前となるとき | |
| ④ 同一事業者内で対象業務以外の業務から対象業務への異動に伴い、犯罪事実確認が必要な場合であって、認定事業者等の責めに帰すことのできない事情により、内示が従事開始の直前となるとき | ||
| 事業者間契約 | ⑤ 労働者派遣契約や請負契約等に基づき教育保育等従事者として従事させようとする場合であって、当該労働者派遣契約等の締結等が認定事業者等の責めに帰すことのできない事情により、当初の想定よりも遅れ、従事開始の直前となるとき | |
| 組織変更等 | ⑥ 現に行われている民間教育保育等事業について、新設合併(社会福祉法に定めるものをいう。)その他の事由により、当該事由によって新たに当該事業に係る認定事業者等となる者が承継し、継続して当該事業を行う場合 | 従事開始から6月以内 (法定上限) |
| ⑦ 現に行われている民間教育保育等事業について、吸収合併(私立学校法、社会福祉法及び会社法に定めるものをいう。)、吸収分割(会社法に定めるものをいう。)及び事業譲渡その他の事由により、当該事業に係る他の認定事業者等である者が承継し、継続して当該事業を行う場合であって、当該認定事業者等の責めに帰すことのできない事情により、短期間で従事者を業務に従事させる必要があるとき | ||
| その他 | ⑧ 認定事業者等が、従事者の従事開始までに十分な余裕をもって犯罪事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、当該従事者の従事開始までに交付が受けられない場合 | |
| ⑨ ①から⑧までに掲げるもののほか、災害その他こども家庭庁長官が特に必要と認める場合 |
※1
①から⑤までに該当することにより「いとま特例」が適用されている職員又は従業者について、期限(従事開始から3月)までに十分な余裕をもって犯罪事実確認書の交付を申請したにもかかわらず、当該期限までに当該交付が受けられない場合は、期限を「6月以内」とする。
※2
認定事業者等については、法第26条第3項の規定により、認定時現職者の犯罪事実確認の期限が認定等の日から起算して1年を経過する日とされれば、民間教育保育等事業者の新設や新設合併等(表中⑥を除く。)の組織変更等は同項によることとし、いとま特例の適用はしないものと整理する。
※3
⑥の「その他の事由」には社会福祉法に基づく吸収合併も含まれる。
いとま特例が認められる事例
基本的には、下記の要件です。
- 事業者が予測できない事
- 急な入学者(利用者)増
- 急な職員の病欠・退職・採用辞退
- こどもの心のケアのため支援職配置
※事件・事故の発生により急を要するもの - 内示等に伴う急な配置転換
- 事業者が期間に十分な余裕を持って犯罪事実確認の申請したが、国から犯罪事実確認書の交付が受けられない場合
※十分な余裕=標準処理期間の最長期間。従業者が日本国籍:1ヶ月、外国籍:2ヶ月
- 事業者間契約(労働者派遣等)
※派遣元事業主の都合・不手際によるもの- 派遣労働者への通知遅れ
- 法人の合併等
- 法人の吸収合併により、合併元の大量の従業員の犯罪事実確認を行う場合
- 法人の統合により、従業者の再配置を行う場合
いとま特例の適用期間
| 事象 | 期限 |
|---|---|
| 急な欠員等 人事異動等 派遣元事業主の都合・不手際 ※事業者が予測できない・事業者に責任がないもの | 3ヶ月 |
| 組織の吸収合併や統廃合に伴うもの | 6ヶ月 |
通常の採用や、定期的な人事異動など「事前に予測可能な場合」は、やむを得ない事情とは言えず、いとま特例の対象外になる可能性があります。
いとま特例適用中の注意点
いとま特例が適用される場合、事業者は、犯罪事実確認を行うまでの間は、その対象業務従事者を特定性犯罪事実該当者とみなして必要な措置を講じなければならない(法第4条第2項ただし書及び法第26条第2項ただし書)
何らかの事情により『いとま特例』が認められた場合でも、従業者は「特定性犯罪事実該当者とみなして」(従業者に性犯罪歴があるものとして)、事業者は対応を講じる必要があります。
いとま特例適用中の必要な措置(事業者の義務)
- 可能な限り速やかに犯罪事実確認を行う
※いとま特例で認められた期間を過ぎても犯罪事実確認が終えていない場合、法令違反 - いとま特例の対象となること等を対象の従業者に伝える
- いとま特例の対象従業者に、いとま特例の趣旨や、性暴力等の防止に関する研修を受講させる
- 児童・保護者等にも必要に応じて、いとま特例を適用される場合がある事を説明する
- 原則的に、いとま特例適用中の従業者と児童を、1対1にさせない
※複数の従業者が子どもと接する環境を作る - 管理職による定期的な巡回・声掛け等を行う
いとま特例適用中の例外
いとま特例適用中の従業者であっても、下記の事例でかつ、やむを得ない場合は、例外的に児童と1対1になる事が認められます。
- 業務の性質上、1対1でなければ適切な対応ができないと判断される場合
- スクールカウンセラー等との面談等
※専門的見地が必要 - 児童等からの求めに応じて1対1で相談・面談等の対応を行うことが適切と判断される場合
- 過疎地、特別支援学級等で、学級等に児童等が一人しかいない場合
- スクールカウンセラー等との面談等
- 突発的な事件・事故への対応等、児童等の安全確保等
- 事件、事故、災害等による緊急
- 一時的・突発的に、おむつ替え・排せつ介助・着替え補助・体調不良の児童等のケア等
※当該従事者以外に対応できる人がいない場合に限る
- こども性暴力防止法施行後に、事業者が新たに事業を始める場合でかつ、十分な余裕をもって許認可等の申請を行ったが、犯罪事実確認が終えていない場合
例外が認められる場合でも、事前に管理職への報告・連絡・相談や、防犯カメラの監視下での従事、リモート等の活用、記録・確認が求められます。
※3の場合を除く
まとめ
今回は、従業者が子どもに接する仕事に従事する前までに行う必要のある犯罪事実確認について、ある特定の状況でかつやむを得ず間に合わない場合に認められる『いとま特例』について解説しました。
いとま特例が認められる状況は『事業者が予測できない事』、『事業者間契約(労働者派遣等)』、『法人の合併等』で、基本的に事業者が『事前に予測不可能な場合』や『派遣元事業主の都合・不手際によるもの』です。
また、いとま特例が認められても、その従業者は、いとま特例適用中は「特定性犯罪事実該当者とみなして」(従業者に性犯罪歴があるものとして)、事業者に様々な対応を講じる必要があります。
特にこの犯罪事実確認は、日本版DBS制度の根幹とも言える部分です。難しい・複雑な事も多い仕組みですが、時間的に余裕を持って準備を進め、日本版DBS制度を通じて、子どもが安心して教育・保育等を受けられる環境づくりを目指していきましょう。
当事務所では、出来る限り最新の情報・資料を基に情報提供を行い、事業者さんが安心して新しい制度を運用できるようにサポートをしていきたいと考えております。
福岡県の日本版DBS制度に関するご相談や、申請・認定手続き、犯罪事実確認の申請・代行は、当事務所にご相談ください。
